【調査書の電子化とは?】教員や学生が準備しておくべきこと
文部科学省は、2022年度の入試(2023年1月)を目途に、大学や専門学校の出願時に提出する調査書の電子化を目指す方針であることを公表しました。
本記事では、調査書の電子化が目指される背景、調査書の電子化に備えて教職員や学生はどういった準備をしておけばいいのかについてまとめています。
なぜ調査書が電子化されるのか
文部科学省が調査書の電子化を目指す主な理由としては、下記2点が挙げられます。
- 調査書の改訂による記載情報量の増加
- eポートフォリオの普及
上記2つの要因が挙がった経緯について少しお話ししましょう。
文部科学省は、2020年度からの高大接続改革を実現するとし、全ての入学者選抜において「学力の3要素」を多面的、総合的に評価することを各教育機関に求めています。
※学力の3要素とは…
- 知識・技能
- 思考力・判断力・表現力
- 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
上記3要素のうち、学力試験だけでは判断することが困難な「3. 主体性」をより適切に評価するにあたり、文科省は、①調査書の改善・充実および②受験者本人が作成する提出書類の積極的な活用法を見直す方針を示しました。
以上のことが高大接続改革の実現に向けた取り組みを進める中で新たな課題となり、調査書の電子化が目指される要因となったわけです。
調査書電子化の要因①:調査書の改訂
改訂後の調査書は、現行の調査書と比べて、より具体的で詳細な記述が求められるものとなっており、単純に調査書に記載する情報量が以前よりも増加します。
前述した通り、調査書の改訂を実施する目的は、主体性の評価をより適切に行い、調査書を入学試験の評価指標として積極的に利用することです。
上記は、調査書記載の膨大な情報量を得点化するシステムが必要となることを意味しており、こうなると紙媒体では高校-進学先間のデータ管理が実務的にもかなり厳しいものとなります。
これが調査書を電子化する必要性を促す1つ目の理由です。
調査書電子化の要因②:eポートフォリオの普及
大学個別のインターネット出願システムに連携して提出するeポートフォリオの普及も、調査書の電子化が喫急の課題となっている要因です。
eポートフォリオとは、学生自身が部活動や課外活動、研究発表の成果、資格取得の実績をインターネット上に記録・蓄積していく「高校3年間の学習履歴」なるものです。
このeポートフォリオは、教員が生徒ひとりひとりのデータをチェックし、将来の目標設定や指導に役立てることができるほか、将来的には入試や就活で利用できるように準備が進められています。
現状では、入試におけるeポートフォリオの利用はまだ義務化はされていないものの、すでに100校近くの大学は2020年度の入試でeポートフォリオを活用することを表明しています。
ここで思い出していただきたいのは、文部科学省が提言した①調査書の改善・充実および②受験者本人が作成する提出書類の積極的な活用です。
学生ひとりひとりを多面的・総合的に評価するため、その評価材料の1つとなるeポートフォリオが入学試験の提出物に追加されることで、調査書の記載情報もデジタル化が必然的なものとなったわけです。
eポートフォリオについてさらに詳しく知りたい方は、下記ページも合わせてご覧ください。
調査書の電子化に備えて教員がやっておくべきこと
2022年度に実施されるすべての入試区分について、原則として電子調査書を用いることを目指すこととする。
文部科学省が、「調査書の電子化を”目指す”」という言う表現にとどめていることから、「本当に2022年度に電子化できるのかな?」「現実的に厳しいから曖昧な表現にしているのでは?」という声もあります。
とは言え、電子化実現に向けた取り組みが現在進行形で進められている以上、そのつもりで準備を進めておくしかありません。
現状の対策としては、調査書作成に関わる高校教員はまず下記を明確にしておくことが重要です。
- 調査書改定内容の把握
- 調査書をどのように作成するかの取り決め
(1)調査書改訂内容の把握
実際に調査書の改訂によって、現状の調査書のどの部分がどのように変更されるのか見ておきましょう。
以下、調査書の改正案は、『平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告』で言及されている内容をまとめたものです。(2018年10月改正)
現在の調査書
現在の調査書は、規定の用紙1枚に必要事項を記入していく様式となっています。
※2019年度現在の調査書の様式は、こちらでダウンロードして確認できます。
記載事項
- 各教科・科目の成績
- 出欠記録
- 特別活動の記録
- 指導上の参考となる諸事項
- 総合的な学習時間の内容・評価
- 備考
改訂後の調査書ではここが変わる
「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」では調査票の見直しについて新たなルールが示されています。(2018年10月改正)
◆記載内容の具体化
改訂後の調査書では、現行の「指導上参考となる諸事項」欄を下記6項目に分割し、より多様で具体的な内容が記載されるようになります。
- 各教科・科目及び総合的な学習の時間の学習における特徴等
- 行動の特徴、特技等
- 部活動、ボランティア活動、留学・海外経験等
- 取得資格・検定等
- 表彰・顕彰等の記録
- その他
例えば、ボランティア活動には具体的な取組内容や期間、資格や検定などは、その内容やスコア・取得時期がより詳細に・明確に記載されるようになります。
◆ 自由記述欄(備考欄)の拡大
調査書の改訂案(※)によると現行で数行分のスペースしか設けられていない備考欄が、改訂後の調査書ではまるまる1ページ分追加されています。
また現行では裏表の両面1枚となっていますが、改訂後はこの制限を撤廃し、より弾力的に記載できるようにするとのことなので、情報の記入量はさらに増えると予想されています。
※「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」参照
(2)調査書をどのように作るかの取り決め
学校によってやり方が異なりますが、現在のところは調査書の記入方法が下記2通りに分かれていると思います。
- 受験シーズン前に3年次の担任がまとめて記入する。
- 各年次の担任が自分の担当分を記入し、3年次の担任に引き継ぐ。
電子化導入後の調査書は、改訂による記入情報の具体化に加え、電子化によって枠の上限がなくなり、膨大な記載量になることが予想されます。
この場合、前者の方針のままでは3年次の担任の負担が大きいだけでなく、調査書を完成させることができない可能性も出てくるでしょう。
当課題については、後者のやり方に切り替えつつ、各年次の担任が各学生の成績・学校生活についてしっかりと把握しておくことが重要です。
活動実績を学生自身に記録させるポートフォリオの導入利用も、教員負担の軽減と完成度の高い調査書作成の手助けになるでしょう。
調査書の電子化に備えて学生がやっておくべきこと
では学生は何を準備しておけばいいのか?それは「ポートフォリオを今から作成しておくこと」です。
調査書そのものに関しては、高校教員や大学職員側の問題であり、学生側が直接触れるものではありません。
しかし電子化より記載上限が無くなることを考慮すると、調査書に記載する内容を学生から教員に提供しなくてはならない可能性も出てきます。
また調査書の電子化と同時進行で、「主体性」を評価指標とする方針が決定したことを忘れてはいけません。
選抜材料としてeポートフォリオの利用を既に表明している大学もありますし、現時点でまだ自身の高校に導入されていなくても、3年次の受験シーズン前になって急に記録を促される場合もあるかもしれません。
必ずしも”e”ポートフォリオである必要はありませんが、自身の活動や実績をコツコツと記録し、必要に応じて提出できるポートフォリオを作っておくことをオススメします。